ご挨拶

2023年4月の記事一覧

令和5年度埼玉県立戸田翔陽高等学校 第59回入学式 式辞 (R5.4.11)

 暖かい春の日差しを浴びて色とりどりの春の花があふれんばかりに咲き誇る今日の佳き日、保護者の皆様のご臨席も賜り、令和5年度埼玉県立戸田翔陽高等学校 第59回入学式を挙行できますことは、本校にとりまして、大きな喜びとするところであります。

 ただいま、入学を許可いたしました213名の生徒の皆さん、入学おめでとうございます。本校の教職員並びに在校生を代表して、皆さんの入学を心から歓迎いたします。

 本校は、学ぶ意欲と熱意のある者が、自らの学習スタイルに合わせて、学ぶ3部制、単位制、総合学科の高校です。

 校名である戸田翔陽高校の翔陽とは、本校生徒たちが志を抱き、夢・希望・目標に向かって、力強く勇敢に飛翔していくことを願って名づけられたものです。

 本校入学に際して、本日、この場をお借りして、皆さんに「自立」ということについて、お話ししたいと思います。在校生には昨日の一学期始業式においてお話ししたことです。

  「自立する」ということについて、ある小児科医の考えを紹介します。どこかで読んだり聞いたりしたことがある人もいるかもしれませんが、御紹介させていただきます。

 小児科医の「熊谷晋一郎(くまがや・しんいちろう)」という方が主張されている考えを紹介します。この方は、生まれてすぐに仮死状態になり、その後遺症で脳性マヒとなり手足が不自由となります。それ以降、成長しながらも車椅子生活を余儀なくされてしまいます。20歳になる前のある時、親元を離れて生活するうちに、次のようなことに気付かされます。

  「周りの人にたくさんのことを助けてもらっていて、なんとか生活できているのですが、それを『自立』した生活が出来ているとするならば、他人にどれだけ依存するかが、結局、自立することと大きく結びついている。これまでは母親を中心に世話をしてもらい様々なことを依存していましたが、親元を離れていると他人からは自立していると見られる。しかし、実際は多くの周囲の人たちに依存し、世話を受けている。」このようなことを改めて認識します。そして、たどり着いた考えが、「『自立』とは依存先を増やすこと」という考えです。

  「自立」という言葉には、「なんでも自分でする」「大変なことでも自分で解決する」というニュアンスが含まれているように考えがちです。そう考えると「自立」と「依存」は相反する立場なような気がしますが、実は「依存先」を増やすことがかえって「自立」につながることになる。このように、ご自身の体験から考えていくようになります。

 普通に生活している私たちの周囲の学校、建物や地域社会においては、まだまだありとあらゆるものが普通の健康な人、健常者向けにできていて、健常者たちにとっては、すでに自身に見合った依存先が複数あり、自分では意識せず当然のようにそれを利用しています。

  いつでも利用できるトイレがある、地震などでエレベーターやエスカレーターが止まっても、避難できる非常階段がある、疲れたら腰掛けられるベンチがあるなど、社会は健常者にとって多くの依存先にあふれています。健常者が何もせずとも得られている恩恵を、身体のどこかに不自由なところがある人には、同じようには享受できていません。

 「『自立』とは『依存』先を増やすこと」

 「依存先」を「頼れる場所」と置き換えることもできます。

  新入生のみなさんも高校生活の中で、もしも壁と感じるようなことに出くわしたり、どうしようもなく困ったときには、「頼れる場所」、「相談できる場所」を探してください。本校の中にもたくさんあると思いますし、外部にも信頼できる場所があるはずです。依存できる場所を多く作り、この小児科医の考える「自立」を図ってもらえたらよいと思います。人には、どうしたらよいか分からなくなる時があるものです。どうしようもないときの「頼れる場所」を多く持てるようにすることで、コロナ禍のような予想もできないようなことが発生する時代になってもその「頼れる場所」を探ることで乗り越えられると思います。

  今、「自立すること」について、ある小児科医の考えを紹介しました。ぜひ、皆さんなりに考えて、高校生活を送ってください。皆さんの周りには、皆さんを支える家族の方々、指導や支援をする私たち教職員、温かく見守ってくれる地域の方々や卒業生がいます。多くの依存先があります。自分の可能性を信じて、明るく輝く未来をめざして、多くの「依存先」を作りながら、新しい学校生活をスタートさせてください。

  保護者の皆様におかれましては、本校を信頼し、緊密な連携を図っていただくとともに、新入生のみなさんが本校を巣立ち社会へ飛び立ち、まさに「自立する」ために、力強い御支援・御協力を賜りますようお願い申し上げます。

 結びに、本日御臨席を賜りました保護者の皆様に、あらためて御礼申し上げますとともに、新入生の皆さんが心身ともに健康で充実した高校生活を送ることができるよう、祈念いたしまして、式辞とさせていただきます。

  令和五年四月十一日

    埼玉県立戸田翔陽高等学校長 野口幸男

 

 

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